痴レ者につき。

井の中の蛙が、井の中から空を見上げたり、井の中に落ちてきた枯れ葉を眺めては、「これは何だらう」と愚考する系チラシの裏。

2月10日は『怪盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』の最終回放映日。

なので、感想ちっくなものを書き連ねていきます。

 

 

まずは最終回の感想ですが、そういう展開にするなら慟哭しながら発砲する必要はなかったのでは……? と云うのが大きいです。最終回は全体的に「そうきたか!」な展開も多かったので、あの慟哭が浮いてしまい、瞬間的にはともかく、全体としては少々白けるような演習になってしまったなあと云うのが残念。


あくまで最終回のみの話であり、シリーズを通すと面白かったと印象になりますが、シリーズ全体の感想の前に、私の思い出話をします。

 

 


中学生高校生の頃の私は、ニチアサに対してメタ視点の感覚を持ち込まずに楽しんでいました。ニチアサ、特に『仮面ライダー』シリーズのシリアスかつ厨二ちっくなお話や、イケメン俳優、ライダーデザインに魅力され、ニチアサを追っていました。


そんな私ですが、大学に入ってからできた友人から、めちゃくちゃ面白い価値観をぶち込まれました。


「特撮、特にニチアサは、子どもに玩具を売る為の作品である」


この価値観は私の中には全く存在しないものでした。


私がニチアサを観ていたのは、前述の理由であり、そこに"玩具の魅力"は全く考慮していません。

例えばガイアメモリに関しても、一般人が手軽に超能力者(怪人)になれると云う、物語の小道具としては高く評価していましたが、音声を外部アイテムに集約することでネタバレを避けると同時に遊び方の限界が存在しなくなる、無限に後続商品を展開できると云う玩具目線の評価は存在しませんでした。


この価値観をぶち込まれたことで、ニチアサの楽しみ方が増え、私は大学生からより一層ニチアサにのめり込む様になりました。

 

 


そんな価値観を持って視聴を終えた『ルパトレン』ですが、『ルパトレン』はむしろ、その価値観を持ってしまったが故に楽しみ切れなかった不幸がある作品だと感じています。

 

 


『ルパトレン』は変身アイテム/合体ロボの基本部分を2戦隊で共通させる、拡張アイテムの収集意欲を刺激する構造になっています。

両方の戦隊が好きになれず、片方の戦隊だけを応援していても共通している玩具は売れますし、その後両方応援したくなっても、共通玩具を別途購入する必要がありません。


「君はどっちを応援する?」


このキャッチフレーズがある様に、取り敢えずどちらかを購入して欲しい。そうすればもう片方も欲しくなるから。そんな意識があったような印象があります。


しかし、結果としては"片方の玩具のみが売れてしまう"状態になっていたのかな? と、思わせる物語の演出が目立つようになりました。


そもそもとして、警察側の強化アイテムがバイカーとクレーン&ドリルだけ、の時点でバランスがおかしすぎるんですよね……。

スプラッシュを渡す展開は非常に上手だったので違和感がありませんでした(とは言うものの、トリガーマシンを怪盗側が使い続けるのはやはり違和です)が、サイレンストライカーは擁護できません。

どう考えてもパトレン1号が使い、2号3号が支えて発砲する想定だったでしょ……。

Xが使うのはまだ理解できるものの、ルパンXにしか重ねないのもやはり違和感がすごい。

その横にはスーパールパンレッドがいたりするので、より顕著。

 

又、サイレンルパンカイザー/ビクトリールパンカイザーの差別化の為に、"ビクトリールパンカイザー飛行モード"と云う玩具再現が不可能な演出を始める始末。

なりきり玩具としてどうなんでしょ……VSチェンジャー及びグッドストライカーがなりきり要素が優秀な分、目立つ目立つ。


玩具販売側で何かがあり、脚本の変更をせざるを得なかったんだなあと思わせる展開となってしまいました。脚本変更は特撮の常ですし、変更されなかったifを想像する等楽しみの1つではありますが、ここまで露骨に前面に出てくるのもすごいなあ、と。中学生高校生時代の私ならそこまで気にしなかったんでしょうが、玩具に関する価値観をぶち込まれてしまった今だからこそ感じる強烈な違和。そんな不幸。

 


では物語に注目してみると、玩具に引っ張られた中盤以降から違和感が目立ったのかと言えばそうでもなく、結構初期から違和感はつきまとっていました


「怪盗と警察、対立する理由薄くない?」


怪盗はルパンコレクションを蒐集する為、ギャングラーを倒す前に金庫を開ける必要があります。では金庫を開ければそれまでなのかと言えばそうでもなく、コレクション回収後にギャングラーを倒す回も多いです。根は善人なのよな。


警察はギャングラーを倒すのが最優先なので、金庫やコレクションを気にせずにギャングラーを倒しにかかります。根は脳筋なのよな。


……うん、怪盗が金庫開けるの待ってからギャングラー倒せば良いんじゃない? そのほうがギャングラーも倒しやすいし。

 

コレクションと云う何が起こるか分からない超アイテムを蒐集しているルパンを危険視するなら、そのコレクションごとギャングラーを倒すのもかなり危険でしょ。それこそ大爆発起こしてもおかしくはない。


素直にコレクションの奪い合いにすれば綺麗な対立になった(警察は危険なアイテムを管理下に置く為、とすれば別に違和感はない)にも関わらず、妙にそこを避けた為に、対立構造に違和感を覚える結果となりました。


一応、警察が怪盗に協力できない背景には、怪盗がコレクション蒐集を最優先とする為に、倒せたはずのギャングラーを取り逃がし、被害が広がるから、と云うものがあります。


……そんな展開、ありました? あったとしても、そこまで強く描写はされていないような。そもそも、あの世間ではルパンレンジャーはかなり好意的に受け入れられていますからね。

 

 


怪盗と警察、どちらかだけを悪として描くことが許されなかったから生まれた違和感互いに正義を掲げる以上、両戦隊とも悪ではあるんですけど、ニチアサでそんなこと描けんよなあ。

 

 

 

 


と、まあ、ここまでボロクソに書いてきましたが、じゃあ『ルパトレン』がつまらない作品だとだったのかと言えばそんなことは断じて否であり、1年間めちゃくちゃ面白かったです。

 
『ルパトレン』がめちゃくちゃ面白かった理由としては、大きく2点あり、1点目は2戦隊の作品にしたことによる1話毎の密度となります。


片方がコメディやっている間に片方がシリアスをやれる等、1話の中に複数の物語を詰め込めるのは大きい。30分の中で間延びした印象を受けることが殆どない。

極端に言えば、前年まで30分でやってた物語を15分でやっているようなものです。そりゃあ、濃いよ。

そしてそんなバランスの中で、30分終始シリアスをやればめちゃくちゃ真剣な話であると伝わってきますし、30分終始コメディをやれば、お腹の底から笑うことができます。青のことなんですけど。

ある意味前年の『キュウレンジャー』の逆をやった作品です。

この1話毎の情報の密度は、今後の作品では真似しづらいんじゃあないかなと思います。主役が常に2人はいないと成り立たないと言うか。もちろん、再現できるなら個人的には嬉しいんですけれども、基本1つのグループで動く『戦隊』シリーズでは難しいんだろうなあ。


これは素直に『ルパトレン』の特色として評価できるポイントだと思います。

 

 


もう1点は、瞬間瞬間のエモーション

仮面ライダービルド』の時も感じましたが、最近の流行なのでしょうね。

前後の設定とか展開とかはあまり意識せず、その瞬間に最も心に訴えかける演出を行う手法。


最初に書いた、最終回の慟哭しながらの発砲も、それが如実に現れた例だと思います。1話の中でその演出を裏切る展開をしてしまったので白けた印象もあると言いましたが、これが2話とかに分かれていたら別に気にならなかったんだろうなと思います。

何だかんだ慟哭しながらの発砲は心を揺さぶられましたもの。

"ビクトリールパンカイザー飛行モード"もこれに該当します。アレは玩具で再現できないと云う、「現実でのガッカリ感」が発生してしまうだけで、作中ではしっかり差別化の役割を果たし、エモーションを生んでいます。


この瞬間瞬間のエモーション重視演出は、小説よりもニチアサ、特に『戦隊』シリーズに向いているんだろうなあとも感じました。だって基本的に1話完結で進行する『戦隊』シリーズで、前後との整合性がないことなんて殆ど気にしませんもの。脚本の変更が発生するなんて当たり前のことですし、むしろその前提で視聴しておりますでしょう?


瞬間のエモーションを重視することで発生するデメリットが気にされない作品群なんだから、もっと積極的に取り入れても良いのではないかな、と。

 

 


又、それを加味しても、『ルパトレン』はこの手法に向いていたのかな、と。

人間関係が複雑ながらもシンプルなんですよね。矛盾しているようですが、『ルパトレン』の構造って「怪盗と警察」の関係性の中に「殆ど固定で、1対1で対応する相手がいる」だけなんですよね。めちゃくちゃ分かりやすいのに、ドラマも生みやすい。

結果、エモーションを発生させる機会もつくりやすい。そんな印象。

 

 

 


『ルパトレン』の感想としては以上になるかな、と。第1話の時点からどう決着をつけるのか楽しみな設定。明らかに玩具の使い方がおかしくなっていく中盤。開き直ってきた終盤と、1年間通して異なる楽しみ方ができました。うん、やっぱり楽しかったし面白かったなあ。


キュウレンジャー』『怪盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』と奇を衒った? 冒険した? シリーズが続いた為、次作の『リュウソウジャー』は無難な作品を目指すのかな、外れのない恐竜モチーフだしなと、今年めちゃくちゃ楽しんでたクラスタとしては少々物足りないような、残念なような印象があります。

そう思っていたら、脚本家と監督が結構意外。もしかして物語は結構冒険するつもりなのか……?

これは次も期待したくなる。やはりニチアサは面白い。