痴レ者につき。

井の中の蛙が、井の中から空を見上げたり、井の中に落ちてきた枯れ葉を眺めては、「これは何だらう」と愚考する系チラシの裏。

8月31日は『君の名は。』の感想を書く。

 

 観てきたのは先週末なんですが、色々と消化しきれなくて感想記事を上げるのが伸びてしまいました。
面白かったことは間違いないので、もう何度か観たいものです。
しかし、劇場ではなく、家で孤独に観たい感じがするんですよねぇ
横に座っていた観客がぶつぶつ感想を呟いていたせいでもあるんですが。

劇場版のネタバレ込の感想ですので、ご注意くださいませ。
(小説版は未読)

 



新海誠がさらに上のステージに到達しやがった……!」

というのが第一にきます。
事前情報からは『秒速5センチメートル』や『言の葉の庭』系統の青春直球作品かと思いきや、それらをベースに『ほしのこえ』や『雲のむこう、約束の場所』に見られたようなSF的物語構成を加えていたことには只々驚愕
新海誠の持ち味であり、そして欠点の一つであった「物語が直球である」点に、持ち味を活かしたまま捻りを加えたことで、物語の深みが何層にも増していました。
元々新海誠のSFが嫌いではなかった点も、僕にとっては好感触。
しかしそれによって万人にオススメできる作品ではなく、オタク受けしそうな作品に仕上がっていたような印象も受けます

よくある(あった)男女逆転ものかと見せかけて、逆転している対象と時間のズレが存在しており、時間遡行をした関係でパラレルワールドが発生しているという構図は、まさか新海誠がこんな凝ったことを仕掛けてくるなんてと楽しくなっていました。
この構図も、考察好きなオタクの方が感触は好いのではないでしょうか。

オタク向け、という言葉に着目して。
今作は「新海誠作品」というブランドがあるからこそ、より面白くなった作品であると僕は考えています。
それは、最終的にすれ違い、別れへと至った新海誠作品」『秒速5センチメートル』が存在しているからです。
新海誠はいくつもの作品を創り出していますが、それでも衝撃のエンディングを迎えた『秒速5センチメートル』は新海誠の代表作と言っても良いはずで、少なくとも新海誠の印象からその感想を弾くことは難しいでしょう。

となると、考えてしまうのです。

「この作品も最終的に別れる物語ではないのか、と」

特に物語の語り部が交差する演出がズルく、『秒速5センチメートル』を彷彿とするシーンが随所に見られます。
何度も何度も交差するシーンは、そのまますれ違って終わりでもおかしくないと、新海誠の作品なら自然だと思ってしまうのです。
他の監督だったら、もう少し気楽に構えられたでしょう。「どうせハッピーエンドでしょ?」と冷めた視線を持ち込めます
しかし新海誠なら、メリーバッドエンドでもおかしくないと、思わせてしまうのです。
実際、作中に何度も、バッドエンドを匂わせる描写が存在していましたからね。
その描写からも、警戒度は高まり続けてしまいます。

そしてその警戒があったからこそ迎えたエンディングは、思わず涙を誘うものに仕上がっておりました。



物語も非常に楽しめる作品になっていましたが、同じぐらいに着目したいのは映像演出です。
出だしの演劇的演出、随所に見られるコミカルな漫画的演出、時間経過を匂わせる演出は、実写映像で最近良く見られる演出(タイムラプス)ですね。
他にも特撮の合成演出っぽいこともしていたりと、これでもかとアニメーションにしては珍しい映像演出を繰り広げておりました。
それが適当な演出であったかと考えると、(好みもあって)他の演出で良かったのではと感じてしまうシーンも存在していたというのが正直な感想です。
しかし、この実験的とも言える挑戦の数々が、新海誠がさらに一皮むけたと考えるもう一つの理由です。

特に、新海誠批評でしばしば見られた、「何故アニメなのか」に対する回答を自前で用意してきたのが素晴らしい。

ただ「実写のように綺麗なアニメーション」なだけなら、「実写で良いじゃん」も成立してしまいそうになります。
「実写のように綺麗なアニメーション」だからこそ、これだけの演出が加えられる。
そこから取捨選択ができるようになった時、新海誠作品はまた一皮むけるのでしょう。その時が楽しみでたまらない。そう遠くなさそうなのが余計に面白い。



と言うか今作、新海誠がやりたい放題、とことんまで好きなことをやっていたような印象を受けますね
前述の演出然り、物語構図然り、RADWIMPS曲の多用然り。

ごちゃごちゃ言っていますが、シンプルに考えれば、
好きなことやって、やりきった作品だからこそ、面白いと感じているのかもしれません。

突き抜けた作品は、それだけで魅力を放つものです。



新海誠作品の主人公の多くが、生徒時代から割と明確な夢・目標を設定しているのも、そういうメーッセージの表れなのかもしれません。