痴レ者につき。

井の中の蛙が、井の中から空を見上げたり、井の中に落ちてきた枯れ葉を眺めては、「これは何だらう」と愚考する系チラシの裏。

実写化はメディアミックスの一種なのか?――『るろうに剣心』から妄想する

やっほほーい! 日谷さんです。

若年無業者から一転、大学院の非正規学生になることができました。
もちろん非正規なので、世間の扱いは未だにニートです。哀しい。

それでも折角大学院の講義を聴講できるので、少しでも得るものがあればな、と。
得るってのもただただ受け身にまわるのではなく、自分から思考を深めていきたいものです。





ってことで今回の題材は“メディアミックス”です。
今読んでいる本が『なぜ日本は<メディアミックスする国>なのか』なのが理由です。

 





そもそも“メディアミックス”って何なんでせう?

5月17日時点でのWikipediaでは

メディアミックス(media mix)とは、広告業界の用語で商品を広告・CMする際に異種のメディアを組み合わせることによって各メディアの弱点を補う手法というのが原義であるが、現在では特定の娯楽作品が一定の経済効果を持った時、その作品の副次的作品を幾種類かの娯楽メディアを通して多数製作することでファンサービスと商品販促を拡充するという手法のことを指すことが多い。

 

近年は、元々一つのメディアでしか表現されていなかった作品(原作)を、小説、漫画、アニメ、ゲーム(コンピュータゲーム)、音楽CD、テレビドラマ、映画、タレント、トレーディングカード、プラモデルなど、複数メディアを通じて展開するビジネスモデルを指して、「メディアミックス」と呼ばれるのが一般的である。従来のビジネスモデルであったキャラクター、小道具、施設など、作品内に登場する物をモチーフとした商品の販売、いわゆるグッズ戦略が、あくまで作品要素を模写・抽出した製品の製造と販売によって当該作品の経済効果を受容する戦略であったのに対し、メディアミックスの売買対象は厳密にいえば作品そのものであり、いわゆる副次的なものではあるが創作物そのものを商品として経済効果を吸収する媒体とした点に大きな相違がある。その結果、創作活動の多軸化によって創作物の量産を可能にし、そして何より従来路線にはなかった爆発的な市場開拓力を持ち、認知性(知名度)の拡大、支持層の開拓、「商品」展開によるさらなるブーム刺激と、それによるブームの長期化・持続化の効果をもあわせ持つに至った。この「商品」展開による過熱化効果は、規模が大きいものだとその重複効果が倍加され社会現象規模のブームをも産み出す可能性を持つ(例:『新世紀エヴァンゲリオン』など)とも云える。1990年代、角川書店は『スレイヤーズ』シリーズにおいて、小説、漫画、アニメ、映画、ゲーム、イベントなどをほぼ同時進行させ、常にいずれかのメディアで商品を提供し続ける手法で、同タイトル作品の長期的な人気の持続に成功した。そして同時期に大ヒットした『新世紀エヴァンゲリオン』における製作委員会方式の確立によって角川書店のメディアミックスは大成功を収める。また最近では、TV局方面での映画・ドラマのメディアミックス化が活発となっている。漫画のドラマ化・映画化が一般的になり始め、さらに逆にある程度TV放送で視聴率のとれたドラマなどを漫画連載化するという形での進出も試み始められている。



(「メディアミックス」(2015年5月17日 (日) 19:45)『ウィキペディア日本語版http://ja.wikipedia.org/wiki/メディアミックス)


 などと書かれています。

要するに「作品の展開」を指しているんですよね。
しかし、ちょっと首を傾げることもあります。



例えば「Schickエヴァのコラボ」
「ゲンドウの髭剃り」と言えばピンとくる方もいるのではないでしょうか。

アレって、「エヴァの展開」なんでしょうか? どちらかと言えば碇ゲンドウの展開」と形容したほうが適当な気もします。
短いとはいえテクストが新たに創造されている以上、“メディアミックス”ではないと否定するのも難しい物はあります。

他だと近年の『ライダー大戦』系も気になるところです。各仮面ライダーの原典設定を無視している叩かれることもある作品ですが、それ故に新しいテクストとしてメディアミックス的に捉えることも可能ではないか、とか。

つい最近だと、「秋月涼サイドエムに颯爽登場」とかね。アレはアイマスDS』の展開ではなく、秋月涼の展開じゃないですか?





メディアミックスとは作品の展開であると言われています。
要するに、サイドストーリーやifストーリー等が副次的に展開されるというものです。

……それって、「キャラクターに新たなテクストを付加している」と捉えることもできるのではないでしょうか?

言い換えると、「メディアミックスとはキャラクターの展開であり、キャラクターが展開したから新たなテクストが生まれている」と、キャラクターの立場から捉えることができるんじゃないかな、という妄想です。





そういう仮定をしてみた時に、『るろうに剣心』の存在が非常に興味深くなります。


るろうに剣心』は2012年に第一部が公開された実写化作品であり、元の作品は『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』であるとされています。



が、しかし。



『エンバ』の感想記事でも書きましたが、和月伸宏先生は実写化公開にあたり、『るろうに剣心 -キネマ版-』を執筆しています。

この『キネマ版』、何が特徴的かといえば、キャラクターの設定が変更されているんですよね。

それは剣心が既に奥義を会得している点であったり、飛天御剣流の技が変わっていたり、キャラクター間の関係性だったり、無敵鉄甲の設定だったりと色々挙げられます。
(龍槌閃→龍墜閃、龍巻閃→龍環閃)

果たしてこれらの変更が加えられたキャラクターは、『明治剣客浪漫譚』と同一のキャラクターと呼べるのでしょうか



特に飛天御剣流の技が違っているというのは大きく引っかかります。
何故わざわざ表記を変えたのか? 技の動線自体は変わっているようには見えないのに。

これは、こういう違いを出すことで、「違うキャラクターなんだよ」と制作側が提示しているのではないかと深読みしてしまいます。





“メディアミックス”とはキャラクターに新たなテクストを与えるものである。

そう仮定した場合、「違うキャラクターを出してきた」『キネマ版』が何を示唆しているのか。





るろうに剣心』のキャラクターと、『明治剣客浪漫譚』のキャラクターは別人なんだよと、強調したかったのではないでしょうか。





そもそもの話として、漫画やアニメのキャラクターは「死にゆく身体」を所持しています。
そこに俳優という「別の身体」を与えようとした以上、同一のキャラクターではないはずなのです。

にも関わらず、それが同一のキャラクターであるかのように消費して、「こんなの○○じゃない」と言ってしまうのはどうなんでしょう。

るろうに剣心』の場合だと、『こんなの戌亥番神じゃない!』あたりでしょうか。
そりゃ「別の戌亥番神」なんですから、違うのは当然なはずなんです。

それを強調するために、『キネマ版』でもキャラクターを変えてきたんじゃないかな、とか。




「キャラクターが別人になっているって、それは最早“メディアミックス”じゃないんじゃね?」

って気持ちもありますが、そこはそれ。
“メディアミックス”の発展と捉えれば、むしろ面白くもなります。

“メディアミックス”商法は、どこに向かうのやら。










――と、ここで終わっちゃうとただただ実写化作品の擁護的な文章で終わっちゃうんですが、もう少し続くのです。





僕は専門家ではないため手元にデータはないんですが、実写化作品って成功しているんでしょうか
あ、成功っていうのは実写化作品の数字ではなく、実写化によって元作品の売上が変動したかって意味です。





「“メディアミックス”で展開元の作品に影響がないって、“メディアミックス”する意味はあるのか?」





それ単体で完結するメディアミックス作品って、すごくもったいないように感じます。
展開元の作品が話題になっているからこその“メディアミックス”なんじゃないでしょうか?

最近の実写化作品が不評なのは、この辺りの意識にズレがあるからなんじゃないですかね……?



「別のキャラクター(テクスト)なんだから、単体で面白ければいいや」

「別のキャラクター(テクスト)だからこそ、両方楽しんでみたい」



制作側も消費側も、後者の意識を持つと少しは変わってくるんじゃないでしょうか。

同一キャラクターの“メディアミックス”って、新規参入は少し難しいですからね。
(『遊戯王』を読んだことない相手に、いきなり『遊戯王R』を勧められるのか?)

別のキャラクターだからこそのアプローチとか、そういうものに期待したいです。

L change the WorLd』とか、嫌いじゃなかったですよ。
そういうLを描いてみたかったんだなって。ストーリーは知らん。

 












余談。
物心ついた時から“メディアミックス”というものが身近にあった(コンビニ等に行って、キャラクター関連商品を目にしなかった覚えがないレベル)ため、“メディアミックス”というものに対して深く考えた覚えはありません。大学でキャラクター論に触れて、少し意識した程度でしょうか。
他にもそういう方は多いんじゃないかな、と思います。

実はこれだけキャラクターに溢れている社会って珍しいらしいんですけどね。
身近だからこそ、それが普通だからこそ分からないことって意外と多いのかもしれません。

最近の実写化云々で何かしらの思いを抱えている方は、これを機に“メディアミックス”について思考を馳せてみるもの一考ではないでしょうか。――以上。

 

るろうに剣心ー特筆版ー 上巻 (ジャンプコミックス)

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