痴レ者につき。

井の中の蛙が、井の中から空を見上げたり、井の中に落ちてきた枯れ葉を眺めては、「これは何だらう」と愚考する系チラシの裏。

読了感想『エンバーミング-THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-』

最終巻が発売されてからずいぶんと経ってしまいましたが、一応感想を投げておこうかと。
一応初版で単行本を追い続けた作品だしなあ。

あ、和月伸宏作品のネタバレ注意かもです


具体的には

るろ剣』『GBW』『武装錬金

 の三作品です。
そんなに致命的なネタバレでもありませんが、一応ご了承ください。

 


 何はともあれ、連載お疲れ様でした。

『エンバ』の連載期間は約七年間だったそうで。
途中の休載が多かったためか、七年間も連載してた感じはしないなというのが正直な感想。
『キネマ版るろ剣』も嫌いではなかったんですが……。
なんだかんだで『エンバ』を楽しみにしてた勢としては、少々残念でしたね。
(休載が原因の一つで、スクエア本誌読まなくなっちゃいましたし)
るろ剣』プロジェクトは成功した部類らしいので、それが何よりの救いです。



閑話休題



スクエアに舞台を移したことで、和月先生の作品にしては珍しく、味方側のキャラクターが死んでいったり、ハッピーエンドと呼ぶには後味が悪い展開が多かったことが『エンバ』最大の特徴ではないでしょうか。
これ自体にはとても好感が持てました。いや、キャラクターが死んで嬉しいってことではなく。

戦闘等に緊迫感が出ますし、何より「どうせ生存するんだろ?」という態度を取れなくなったのは大きい
神谷薫然り、マーカス然り、防人衛然り、なんだかんだで生存を重ねましたからね……。
ここらで一度「死ぬ時は死ぬ」物語を提示してきたのは、良いスパイスになるのではないかと。





また、ハッピーじゃなくても良いと、年齢層を高めに設定した効果か、これまでよりも魅力的な演出が垣間見えるようになったと感じます。
僕が最も好きな演出は、



  「そう思うなら夜はもう少ししっかり寝かせてくれ」(六巻)



 だったりします。
和月先生が “そういうの” を匂わせるのって珍しくないですか……?
ってのと、その匂わせ方が仕合わせそうなのが実に素敵



  「ボクは死体に生まれたかった」(九巻)



 も好みなんですけどね。
彼の狂気を端的に表しているように感じます。





『エンバ』もう一つの特色としては、群像劇であることが挙げられます。
が、これは、少なくとも成功はしていないなあ、と思ってしまいます。

群像劇って、決して「主人公のいない物語」ではないと思います。
「視点のあたるキャラクター全員が主人公」な物語が群像劇なのではないかと。
『エンバ』は前者になってしまっているんじゃないかなあ、というのが不満点ですね。

と言うのも、ヒューリーはレイスを殺した時点で主人公力を失ってしまったように感じるんですよね。
それに加えて、アシュヒトは「今のエルムを愛していることを自覚するかどうか」な物語なので、新しい敵が出てこようが何が起ころうか、あまり関係ないのも痛い
(そりゃ、文字通り「二人のエルム」は驚愕しましたけど)
そしてそして何よりも、ジョンの主人公力が高過ぎる。

この三点と、登場・離脱タイミングから、エグゾスケルトン撃破時点で「ヒューリーからジョンヘと主人公が交代する物語」のように映ってしまったんですよね

そのくせ機能特化の八体目を倒すのは実質ヒューリーだったり、最終話でまた主人公交代の演出を挟んだりしてので、首を傾げる羽目になってしまいました。
あのタイミング以外でヒューリーの再登場はできないってのも分かるんですが……。

グロースをラスボスの一柱にして、ジョンと戦わせたら良かったのに、とか思っちゃいますね。





もちろん群像劇にしたことで生まれた魅力もあります。

アシュヒトの



  「楽しくなんてありません」「ただ」「目的があるだけです」(二巻)



 と、ジョンとワーグナー



  「そんなんで人生楽しいか?」

  「楽しくはない」「だが」「充実している」(八巻)



 みたいな、各キャラクターの感性の差が随所に垣間見るのは、キャラクターの魅力をより深めていたのではないでしょうか。


他にもメアリの



  「虚無からは狂えない――」(四巻)



 と、ゲバルト=リヒターの語る



  「7には人格も記憶も最初から無い」「虚無なんだ」(九巻)



 は、じゃあ7は狂わなかった唯一の人造人間なんじゃないか……? みたいな妄想ができたりして楽しい。
群像劇だからこそ、メアリに出会わないキャラクターに視点が当たるからこそ出てくる楽しみではないでしょうか。







作品全体の感想としては、和月先生はやっぱり笑顔とハッピーエンドが好きなんだなあ」に集約します。
でなければ、あんな最終話にはならないでしょう?

「少年漫画の基本は笑顔とハッピーエンド」を公言していることで有名ですが、その基本はスタンスとして先生の根本的なものになっているのではないかと。
今後、『エンバ』を経験したことで、物語における影の部分はより暗くなるかもしれませんが、その反動により明るいハッピーエンドが描かれるんじゃないかな、とか。



gdgd書き連ねましたが、何にせよ次回作も期待しております。
『エンバ』で戒めが解禁され、単行本修正もされるようにもなりましたし、『エンバ』は間違いなくこれからの糧に成り得る作品でしょう。それだけは間違いない、はず。
 

 

エンバーミング 1―THE ANOTHER TALE OF FRANK (ジャンプコミックス)

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